第2回世界遺産ワークショップの報告 コメンテーター 宮田一雄
「武家の古都・鎌倉」の世界遺産登録を目指して開かれた第2回ワークショップは、24カ所の世界遺産候補を生かしたルート作りという具体的な作業が議論の目標として設定されていたことから、世界遺産と鎌倉との結びつきをこれまで以上に現実的に考える機会を提供することになりました。
平泉の世界遺産登録先送りという事態の余波を受けるかたちで、これまでの鎌倉の世界遺産登録推進スケジュールもいったんご破算となり、仕切り直しが必要になってます。こうした時期には、どうしても目標を喪失し、登録推進に向けたエネルギーも求心力を失いがちなだけに、今回のルート作りのように目に見える成果物をひとつひとつ残していけるような機会を今後も具体的かつ継続的に積み上げていくことが必要ではないでしょうか。そうしたことを感じさせるワークショップでもありました。
50人近いメンバーが6つのグループに分かれて進められたディスカッションは、最初のうちこそやや戸惑いがちでしたが、地図を広げて具体的なルートを描き出していく過程に入るとがぜん熱を帯び、どのグループも楽しそうに作業を進めていたことが印象的だでした。コメンテーターとしては3回、意見を述べる機会を与えていただいたので、以下にその概略を含め、いくつかの感想を記させていただきます。
【各グループの議論に先立つ事前コメント】
古都には2つの意味があります。ひとつはかつての政権都市であること。そしてもう一つはすでに政権都市ではないということです。
古都が古都であるためには、前者の政権都市時代の遺産を守ることがもちろん大切ですが、一方ですでに政権都市ではないということにもきちんと目配りをしておく必要があります。古都であるという自己認識のもとに、無冠の時代ともいうべきその後の長い時間の蓄積の中で生み出され、付与された新しい価値を伝えていくことができなければ、古都は現在の政権都市に対し、古都としての存在理由を失うことにもなりかねません。その意味で、古都の存在は、あり得たかもしれない現実、もう一つの選択肢の保持といった観点からも重要であることには注目しておく必要があります。
世界遺産候補という点を線で結んでいくルート作りの作業には、古都の持つ重層性、ふところの深さ、古さが生む新しさといったものの魅力を引き出す可能性が秘められています。点に比べると線は、はるかに多くの余剰を抱え込むことが可能であり、地理的な線が自在に時間の軸を縫っていくといったかたちでルートを生み出すこともできるのではないかと思います
【中間発表時点での感想】
さまざまな議論の広がりがあり、これからどのようなルートが出来てくるのか楽しみです。
個人的な感想をあえて付け加えさせていただければ、海を生かす視点がもう少しほしい。鎌倉は何よりも海を抱えた古都であるというところが大きな魅力だと思います。海は京都も奈良も持つことができません。武家の古都は武家だけに支えられてきたものではなく、商業集積地としての材木座地区がかつて持っていたパワー、その記憶が伝える魅力に着目してみるのも面白いと思います。
お話をうかがっていて、具体的なルートの選定という作業が逆に、古都・鎌倉の抱える課題、問題点を浮き彫りにするかたちになっているのも興味深い点でした。たとえば、交通渋滞対策、トイレ整備などが各グループの発表からも指摘されています。
【終了後の感想】
ルートの選定作業は実は、多くのものを切り捨てていく作業でもあります。くっきりとしたラインを描くためには、コンセプトの明確化が必要だからです。しかし、そのような作業を経て、いったんラインが明確にされたら、今度は一転して、そこに多くの要素を盛り込む作業を進める必要もあります。ひとつのルートは単線ではく、時間の蓄積といったものも考えれば、複線、複々線的な重複化されたストーリーの魅力を抱え込むことが可能ではないかと思います。
そして、その中に近代への着眼といったものが入れば、たとえば円覚寺の境内を走る横須賀線
に対する評価といったものも、時代が残した景観としてもう一度、再評価を試みることができるかもしれません。たくさんの時間、数多くの日常が堆積して現在があり、その肥沃な現在が明日の糧になる。そうした古都の不思議さを持つ現役の都市であるからこそ、鎌倉は世界遺産にふさわしいのではないか。鎌倉の魅力を大きくとらえるにはそうした視点もまた、必要でしょう