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第3回『みんなで考える「どう守る私たちの世界遺産」』
(平成21年)報告3頁

巻頭言 目標にむかい さらなる議論を! 総括進行役 福澤健次

今回のワークショップは11月8日の日曜に市役所講堂に集って、これまでと同じように午後の半日弱を使って行われました。
配布チラシに、「鎌倉の価値や魅力を語り合い見極め、それを守っていく方法を一緒に考えてみませんか!」と書きましたが、世界遺産候補地を次の世代にどのように守り伝えられるかを、各文化資産の特性別や地域別のグループに分かれて話し合い、みなが現在どのような認識をもっているか、優れた意見や有効な手立てが見つかるかを、探ろうという趣旨で開催いたしました。
各テーブルの話合いに先立ち、まずわたくしからテーブル構成、時間配分、用意の資料類などを説明し、さらに、鎌倉のような歴史都市を論じる際には、各時代の都市施設を、時代別や機能別に捉えた図・シートを想い描き、それらの図・シート(=レイヤー※)をいろいろに重ね合せ、街を理解するレイヤー的な思考操作、理解方法が有効だ、という話をしました。
ひき続いていつも通りに東大の赤川学先生、産経新聞の宮田一雄さん、地域プランナーの伊達美徳さんの3人のコメンテーターに、討議に役立つようなお考え・ヒントを話してもらいました。それらの内容や考察などは、お三方の報告・コメントに譲ります。
[※layer : 置く(敷く)層、重ね、;地層;階層;玉ねぎの皮ナド]

グループ毎のテーマとテーブル構成、運営体制
六つのテーブルを用意しましたが、各テーブルの話し合いは、(1)「禅宗大寺院とその周辺」、(2)「遺跡とその環境」、(3)「社寺とその参道」など遺産タイプ別のテーマを話し合う3テーブルと、(4)「二階堂辺」、(5)「長谷・極楽寺の辺」、(6)「扇ガ谷辺」という地区別の候補遺産群および周辺を論じる3テーブルとに分かれ、それぞれ検討と討議を進めました。
テーブル進行役の皆さんには、盛り沢山の話を短い時間内でまとめ、テーブル総意をまとめなければならないので、第1回以来の経験者を重視した起用を考えました。第2回のAテーブル田川さん、Dテーブル横川氏、Eテーブル高木氏、Fテーブル大竹氏 は参加が実現しましたが、Bテーブルは長谷川さんが山村さんに、Cテーブルは山崎さんの代りに草場氏が、それぞれ役を務めることになりました。
各テーブルに登録推進協議会メンバーと市・世界遺産登録推進担当職員が、運営側スタッフとして席に着くのは第1回・2回の場合と同様でした。
事前打ち合せで、各テーブルの進行役とテーマの関係はA−(4)、B−(5)、C−(1)、D−(6)、E−(2)、F−(3)という組み合せになりました。

今回のワークショップおよび報告書づくりのねらい
各テーブルの話し合いは上のようにテーマを分担することで、所期の成果をあげようとした訳ですが、はじめての参加者も多かったこのワークショップでは、世界遺産の登録の意味や登録の可能性などに、再度話が戻るのは避けがたいことでした。
その辺の議論については、最後に伊達美徳氏がコメントし、「鎌倉の世界遺産登録」と「歴史都市づくり」の合い間にある諸課題を、白板を使ってわかりやすく整理・分析してくれました。
さてここで、いくぶん内輪の話もまじえ、このワークショップ報告書のつくり方や狙いなどについて、お話ししたいと思います。
1,2回を通じてわたくしのパソコンをキイステーションとし、テーブル進行役とコメンテーターの皆さん、事務局担当役が添付メールをフルに使い、意見・原稿の交換をし合って報告書を作ってきました。
そこで今回も前2回にならう報告書づくりを進めることにしました。伊達さんから記憶が消えないうちにと、驚異的速さで原稿が届きました。しかもそれは想像もしなかった書き方なのです。お楽しみに報告書の最後に載せましたのでご覧ください。
まちづくりの先輩のこの初球は、W.S.を準備した側にいるわたくしが感じた今回の報告書作成の難しさに活路を示してくれ、問題の所在をわかり易く読ませるものです。
できるだけ魅力ある報告書を作るには、少し強引だがこれまでのようにみなさんの原稿を待つのでなく、総括進行役が伊達さんに続く第2弾を投げ、認識の不足する発言には卒直な意見を述べ現状を語り、テーブル進行役や他のコメンテーターが活発に思いを述べられるようにすべきだ、と考えました。

世界遺産登録に向けての現在の状況
 今年初頭と夏に湘南国際村と鎌倉で、文化庁と神奈川県、横浜・鎌倉・逗子3市の主催で、世界遺産登録に向けての「武家の古都・鎌倉」の文化資産の、価値の証明や適合性を論議する国際シンポジウムと公開フォーラムが開かれました。
議論の対象となった所は20カ所ほどで、中世に開創された武家の都の文化の特性を示している場所・施設などでした。 2回の会議を通じてそれらは、上手な解説を工夫する必要があるが十分に世界遺産に値する、という感触が得られて、今回のワークショップ企画が立てられました。

ワークショップへの期待、ねらい、それに向けての自由な意見の開陳
 わたくしがレイヤーの話を最初にしたのも、そのように街全体でなく史跡のグループが世界遺産候補であり、そうした世界遺産レイヤーは歴史都市としての鎌倉のレイヤー群の中で重要な一葉であるが、その他にも近世近代のレイヤーや現代生活を楽しむためのレイヤーもある、ということを解ってもらいたかったからでした。
「くらしに自然・歴史・文化がいきる古都鎌倉」というまちづくり理念を持つこの町で、他の時代のレイヤーもうまく利用して、世界遺産レイヤーをいかに磨いて行き、今後も歴史を創り続ける町でどう守り伝えていくかを、みなさんに考えてもらいたいと思っていました。
一例を挙げれば、往時の極楽寺は現在の稲村ガ崎小学校を含む広大な境内を持っていました。いま、忍性塔がある奥の院の墓地は、小学校のグランドの先にあります。
 現在の極楽寺の山門は、江ノ電極楽寺駅ホームの目の前に、ホームより高い位置にあり、駅の真ん前と思えないほど静かに可愛く、たたずんでいます。
長谷に向う江ノ電がくぐっていくレンガ造のトンネルを見下ろす桜橋の上には、トンネルを出入りする江ノ電の姿をカメラで写す観光客が見られます。
家と家の間の狭い隙間を抜けていくと、上杉憲方のお墓がひっそりとあります。
明治から昭和、江戸や室町の遺産が鎌倉時代の大伽藍の場所に、歴史の進展の結果、今の時空間の中に共存していて、それらの総体が極楽寺周辺の魅力を醸し出しているのです。
みなが愛し生き続けるまちへと進む、その方向を確かめること、そこに今回のワークショップの意義があると考えていました。
しかし時間不足もあって、その辺を十分に論じるところまでは行けず、終ってしまいました。
しかし伊達さんのコメントは不思議に、わたくしの当初意図を進めるための絶妙な前提整理となっていました。
テーブル進行役の皆さんには、時間的制約から意を尽くせなかった説明や感想を加えてもらい、自由に意見の開陳をしていただきたくことにしました。この先の報告文をご期待ください。
今回も有益な会でしたが、上に述べたように各時代がモザイク状に混じる、個性的で厚みのある歴史都市・鎌倉を作っていくため、引き続いてのワークショップで盛んな議論と提案があることを期待して、第四回の企画を始めたいと考えています。
その節にはまた、どうかよろしくご参加ください。
Bテーブル発表に補足説明をする福澤進行役
Bテーブル発表に補足説明をする
福澤進行役
江ノ電極楽寺駅ホームの屋根越しに極楽寺山門を見る
江ノ電極楽寺駅ホームの屋根越しに
極楽寺山門を見る
 

各テーブルのテーマと進行について

各テーブルのテーマ設定
・テーブルA:テーマ=「二階堂辺」
覚園(かくおん)寺(じ)、瑞泉寺、荏柄(えがら)天神社(てんじんしゃ)、法華堂跡、永福(ようふく)寺(じ)跡(あと)とその周辺環境
・テーブルB:テーマ=「長谷・極楽寺の辺」
鎌倉大仏、極楽寺、大仏切通、一升桝遺跡、仏法寺跡、北条(ほうじょう)氏(し)常盤亭(ときわのてい)跡(あと)とその周辺環境
・テーブルC:テーマ=「禅宗大寺院とその周辺環境」 建長寺、円覚寺とその周辺
・テーブルD : テーマ=「扇ガ谷辺」 寿福寺、浄光明寺、仮粧坂(けわいざか)、亀ヶ谷坂(かめがやつざか)とその周辺
・テーブルE : テーマ=「遺跡とその周辺環境」 やぐら、寺院等跡、5切通し、和賀(わか)江嶋(えのしま)などとその周辺
・テーブルF : テーマ=「社寺とその参道」 鶴岡八幡宮と若宮大路、荏柄天神社および鎌倉大仏と参道

各テーブルの進め方とポストイット貼りこみシート
 この第3回ワークショップでは、各テーブルで話し合うテーマをそれぞれに変えたことは総括進行役報告でも触れましたが、鎌倉の世界遺産候補が幾つかの異なる特性のものに分れ、どう守っていくか考える際には、それぞれ相通じ合う場所を一緒に考えてみるのが適当であろう、と考えた結果です。
 各テーブルで、進行役が報告する際や報告書レポートを書くとき利用できるように、参加者発言をポストイットに記入し模造紙に貼りこんだものを作成しました。
これらは時間的制約に追われつつも、テーマに対しテーブル毎の答を作ろうとする話し合いのプロセスを、端的に示すものとなっていました。
何人もの報告執筆者が書いていますが、今回のテーマは予定時間内に、とても論じ尽せない、広く難しいものでした。その上各テーブル毎に異なるテーマ です。この後に続く各テーブルのレポートを読みつつ、各テーブルのポストイット貼りこみシート (テーブル報告の中に付した表) を見ると、それぞれがどう話題をしぼり、論議を進めていったかよく判ります。
個々の候補遺産よりその地域や鎌倉全般に関する議論の多かったテーブル、W.S.の主旨にできるだけ応えようと、話し合いが進められたテーブル、遺産の性格を武家文化の発祥に結び付け、また今の時代の対応態度を見極めようとしたテーブル、知る・学ぶ・観光などにこだわり、話を進めたテーブル、遺跡という人それぞれに多様な受取り方をする対象に対して、その考え方の端緒を見出そうと心掛けたテーブル、最も典型的な候補遺産に的をしぼり答を探ろうとしたテーブル、それぞれが面白いほどの個性・独自性を示してくれました。
そしてそれらの全てが合わさって、見事に鎌倉の世界遺産登録の今の状況がクローズアップされました。
なお、各貼りこみシートに載せられた発言は、初めての読者にも意味が通じるよう、短かすぎる言葉などに、いくぶん語を足したりしましたが、できるだけ忠実に、そのまま拾おうと心がけました。
しかし、意見・感想などの貼り付け位置に関しては、全く新たに整理をし直しました。
貼りこみシートは、左側の全体欄には遺産全体や町全体に係わり、また登録問題に係わる発言を配し、その右にテーブルが受け持つ各遺産に関する発言を順に並べてあります。上下方向に関しては上に現状・歴史認識に係わるもの、中段に課題に関する発言、下段に提案やまとめと思われる意見などを配しました。
この整理によって、シートを見るだけでもテーブルの話し合い内容や、関心の方面などが掴めるようになりました。 (福澤)

※「きりどおし」の表記 : 以下に報告書を編むに際して、各報告者の文章の表記がマチマチであることが問題になりました。辞書その他にあたってみたが、それぞれ用例が認められる。史跡指定にある「切通」に統一すべきだ、という意見もありましたが、それだと読みに迷うという意見もあり、新明解国語辞典の「送り仮名は、史的に見れば、訓読みの確認のため漢字の傍らに随時小書きしたもので、一貫した理法など由来、存しない」という見解に従い、「切通」、「切通し」、「切り通し」全てを可とし、各報告者の記述を尊重することとしました。

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