Bテーブルでは世界遺産登録を前向きにとらえるものの、登録が未だに足踏みをしている理由を出し合って、後半にはそれらを解決するための手立てや、市民がなすべきことを、提案としてまとめました。
登録後も視野に入れることができ、終始前向きな会話がはずんだことに進行役としてたいへん感謝しています。
参加者の紹介
参加者7名の内訳は市外在住者が2名、市内在住者が5名です。横須賀と横浜に住んでいるお二人はともに市の職員で、鎌倉山から初参加の方と前回参加の腰越の方、鎌倉ユネスコ協会会員、世界遺産登録協議会広報部会員、それに進行役です。
まずは自己紹介で鎌倉とのかかわりを話してもらって、お互いの距離を縮めることにしました。
次に議論のとっかかりとして、進行役から、「先月松沢県知事と松尾市長が文部科学大臣と文化庁長官を訪問、国の協力を要請し、推薦書案を平成22年度中に仕上げていくことを目指して、文化庁と協働していく」という進捗情報を提供しました。
キーワードを探す
「今日のWSでは“そろそろ鎌倉の本当の価値は何か”をつかみ、鎌倉の独自性を示せる内容を期待したい」と、進行役の福澤さんが挨拶の中で訴えられました。短い時間でそれらを探し当てるために、キーワードを探すことにしました。
登録がおぼつかない今の状況に対しては、“冷たいまなざし”にならざるを得ませんでした。みなさんの発言をキーワードでくくって見ました。
キーワード1 おもてなし
・観光客や修学旅行生に、市民自身が地域遺産を自覚し、おもてなしの精神を持って接していない。
・弁当を食べる場所や公衆トイレは十分ではない。
・路線バス乗務員が外国人に対して英語での対応が未だにできていない。
・京都とは違う、日帰り旅行に特化した観光ができるよう受け入れ側として工夫するべきだ。
・観光バスや人力車、タクシー、ガイド協会などのガイドが鎌倉の歴史や文化を来訪者に正確に伝えているか疑問だ。
キーワード2 遺産はなにか
・保存すべき建築物と守るべきまち並みを整理していくべきだ。(特にバッファゾーンでの話として)
・守るべき遺産の領域の再確認が必要だ。
キーワード3 遺産と市民生活との折り合い
・歴史的建造物と近代建築との間に、品格とセンスをもった調和が図られていない。(八幡宮と近代美術館はバランスが取れている)
・史跡の保護と現在の市民生活の共存についての折り合いがむずかしい。
・若宮大路周辺では商業主義ばかりが目立つ。看板などの景観が見苦しい。話し合いの空気がない。
・地域の景観は景観法だけでは守れない。住民同士の協力関係が必要だ。(主に一般の街の話)
・雑然としたまち並みはやめて、世界に通じる景観の美を作り上げたい。(今は多様性を許容する調和を追求しなければならないであろうが)
・テレビでは鎌倉のグルメ番組ばかりが目立つ。
・若者は世界遺産より商業とグルメに興味が片寄っている。
・商店街の考え方も千差万別、精神文化は浸透しにくい。
そして後半では、前半の課題を解決するための前向きな提案が出てきました。
そのきっかけとなったのは、「鎌倉にあるのは中世仏教文化であって、武家文化はどこにもない」というお一人の発言でした。これに、「円覚寺には蒙古戦の戦死者を敵味方なく祀った」ように、平和という形の武家文化が残っている、と広報部会長の内海さんが切り返されました。すると、「市民として武家文化や武家の精神を学ばずしておもてなしはできない。だからまず学ぶ場や機会が必要だ」と言う方向性が見つかりました。
提案1 市民が学ぶ場づくり
・新鎌倉アカデミアを創設し、鎌倉の歴史遺産講座を常設する。とりあえず、既存の施設を利用する。
・歴史都市の心臓部と言える博物館と埋蔵文化センターを急ぎ建設する。
・鎌倉の遺跡は点と線の文化、市民は名所・古跡を深く掘り下げる勉強を積み重ねてゆこう。
提案2 観光客が学べる場づくり
・鎌倉の歴史遺産を総合的に学べる観光センターと情報センター(登録には必要とされる施設で現在設置に向けて検討中)を設置する。
・図書館内に世界遺産コーナーを設け、担当者が常駐して遺跡や鎌倉の歴史を学んでもらう。
・市民と観光客が共通して利用できるガイドブックを作成する。監修者を置き定期的、永続的に更新する。
提案3 おもてなしを学ぶための場づくり
・商工会議所や観光協会、市は、観光バスやタクシー、人力車やガイド協会などのガイドに対して交流会的な研修の機会を設ける。
提案4 情報発信力
・大人から子供まで世代間格差なく鎌倉を学んでもらうためには情報発信力の充実が欠かせない。
・IT(インフォメーションテクノロジー)情報を充実させる。
・世界遺産のまちを知ってもらうにはソーシャルネットワーク(家族や友人・知人などを含む豊かな人間関係)を確立することが大切だ。
・世界に鎌倉を知ってもらうためには要人(例:オバマ米大統領)にアピールする。
学ぶことにより商業者も市民も来訪者に対し「そっけない市民」をやめることができます。市民自ら自然を含めた遺産を守る意識づくりをじっくりとやり、鎌倉禅を学んだりすれば、自ら豊かな生活を送れます。
まとめ
登録に行き詰まり感があっても、参加者の皆さんが前向きになって、今をどう捉えているかを率直に発言してもらった結果、「学ぶ」ことにスポットを当てることになりました。誰
もが学ぶべき宝が身近に沢山あることに気づき、学ぶことに生きがいを感じ道端でさりげなく歴史を語り合う日常的な風景が鎌倉には似合います。
鎌倉に住んでいる誰もがその価値を認めて住んでいると思いますが、「歴史都市鎌倉に住んでいるから“責任ある市民”になろう」という精神文化こそ、今最も求められていることを、参加者の皆さんは強く訴えています。
登録推進協議会の設立総会で、前会長の養老さんが「このまちは何らかのはっきりした目標を掲げて動くということをしてこなかったように思う。抽象的なことでなく具体的なことでやってみよう」とおっしゃっていました。
これから一人でも多くの人がこの具体的なことを見つけ、ともに実践する仲間を増やしていくことで、鎌倉のまちが世界遺産のまちに変化していけるのだろうと思います。
|
|
熱心に説明をする山村さん
|
Bテーブルにおける討議の模様
|