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第6回 「世界遺産登録後の鎌倉を見据えて
 − その趣 (おもむき) と理 (ことわり) −」(平成24年)
目次 と 報告2頁

 
テーブルA-1 タイトル

 A1テーブルは登録後を見据え鎌倉の山・海とまちのあり方について話し合いました。世界遺産候補地とそのバッファーゾーンには文化遺産が集積していますが、自然遺産と言ってもよいほどの“緑と水”があり、それら抜きに理(ことわり)は考えられません。
 テーブルには世界遺産登録を機にもう一度人々に世界遺産をささえる“緑と水”を、自らの事として考えたいと思い、保全の必要を痛感する市民が集まりました。鎌倉の山と海を思いやるみなさんの意見・提案が、今後の鎌倉に活かされることを大いに期待しています。

■自己紹介
 A1テーブルには男性4名、女性2名が参加し、そのうち5名が市内在住者でした。市職員の岩城さんが平均年齢をかなり引き下げてくれ、テーブルに若い雰囲気が生れました。まず自己紹介を兼ね、各々の鎌倉の山や海とのかかわりを述べてもらいました。
 鎌倉でボランティア歴の長い茅ヶ崎住いのAさんは鎌倉風致保存会に所属し登録推進協議会の会員、「鎌倉の今よいところをそのまま残していけばよいのではないか」と述べました。御成町のBさんは「海を資源にして坂ノ下地域が活気のある昔を取り戻せるよう、ワークショップを開いた」と報告、「20年後を目指し活動してゆく」と意気込みを述べてくれました。
 推進協議会メンバーで西鎌倉のCさんは、「候補地と山・海は切り離せない。西鎌倉に住む自分には広町は身近な自然だが、日常生活で鎌倉の山との一体感は湧きにくい」と発言。玉縄在住の女性Dさんは玉縄城址まちづくり会議のメンバー、「歩くまち鎌倉」の実践報告をし、市との協働事業でガイド協会と玉縄城址周辺の7kmのコースづくりをした、ということです。
 市の拠点整備部職員の岩城さんは西鎌倉在住、休日は自宅から江の島、由比ヶ浜、十二所、北鎌倉、大船、西鎌倉と市内一周20kmを歩くと明かした、その頼もしい休みの過ごし方にみな感心しました。

■ワークショップの進め方
 事前打ち合せでサポート役の岩城さんと、前半には山・海とまちに関する課題を挙げてもらい、後半に具体的な提案をまとめよう、と決めました。ワークショップの記録のために出た意見を発言シートに正確に書き、それをまとめなければいけないのですが、岩城さんに手際よくまとめてもらい、中間と最終発表ができてたいへん助かりました。
 なお、前半の話し合いには、アドバイザーの木下教授と協議会広報部会長の内海さんが着席し、8名の話し合いが実現しました。

■前半で出されたいくつもの課題
 まずは今鎌倉市が直面する山と海の課題について切り込んだ意見が出ました。
 「三大緑地など大きな緑が開発から守られたことは喜ばしい。緑の基本計画で、鎌倉の緑の保全は進んでいるが、一方でその山はことごとく手入れが不充分、風致保存会の活動もキャパシティを越えている、開発を阻止し守った山が荒れたままでいるより、手入れのされた家々が並ぶ風景の方が良い、梶原住宅地ではまちと緑が調和し、個人住宅の美しい連続があり、山とまちの好ましい関係がある」、など。
 さらにマイナス面で、「緑の多い住宅地で宅地が分割され庭も減り、緑が少なくなった。昭和の鎌倉攻めで大仏裏山を造成した住宅地に住むが、昔から住んできた方から、山の文化を壊したと言われた」、などの報告もありました。

■内海広報部会長と木下教授のコメント
 参加者の意見が一巡したところで内海さんが発言、「今や古都法も形骸化している。4条区域と6条区域の都市計画は自然と調和する開発というには程遠い、憂うるべきまちづくりの状況だ。住民自ら古都のまちをつくっていく意識が薄い」などのご意見でした。
 木下教授からは「東京大学キャンパス計画に参加したが、建築と都市計画が先にあって、残った場所に植物を1本ずつ植える状況だった。私は先に緑ありき、植物の幸福とは何かを考えていきたい」という発言が出ました。
 お二人の話の後で、「今鎌倉の自然は限界に向かっている、植物にとって一番よいことは在来種を中心に植生を考えること、鎌倉の生物多様性を考える会を開催した」などの発言もありました。

■どうすれば鎌倉の緑と水を守れるか?
山村さんによる最終発表
  山村さんによる最終発表
 前半の終わり間近に、疲弊した現状を打破する解決策を出してもらうことにしたら、「山や海を守るためにはお金が必要だが、鎌倉はそもそも財政難で、食べていけないまち、こんな状況では市民が金を出し体力を使い、時間を奉仕するしかない。緑を守るため活動をしている団体をつなぐ、活動拠点が必要。市財政を踏まえた検討も重要だが、NPOなど市民の持出しで積極的なまちづくりを考える。その上で市の収入を考えていくしかない。などの切実な意見が次々とありました。
 内海さんも、「世界遺産候補地の緑を守る活動を拡げていくことが重要、市民の保全作業に期待する、海の恩恵で言えば鎌倉海老は伊勢海老として立派な収入源だった。収入源を探るのは当然、市民が身銭を切ることも考えなくてはいけない」と述べました。

■中間発表
 中間発表までの議論の流れは、「荒廃した山・海を守るためには市に相当の収入が必要、市民も財政的視点を持とう、山・海を守るため市民も身銭をきろう」、という市民の力が試されるような意見にまとまっていきました。
 こうした流れを想定していなかった進行役は皆さんの現実的な判断力と懐の広さに感激しました。
こうして後半の「どうすれば収入を増やせるかを考える」話し合いにつなげることができました。

■鎌倉市の財政状況、比留間部長のコメント
 市財政について、「借金が1000億円、収入は専ら固定資産税、源泉徴収義務者が少ない、高齢者が住むまちで税収が少ない、世界遺産のまちにこだわり行政が金を使うことはない、文化財部の予算は一般会計予算の1%」などの発言が続いたところで、 比留間部長が市の財政について説明してくれました。
 「鎌倉市は他都市と比較して著しく歳入状況が悪いわけではない。財政状況が厳しいといわれるのは、これまで拡大してきた行政サービスの多くが義務化しており、さらなる事業拡大が困難ということで、今後、事業の見直しを行っていくことが求められる。また、公共施設の老朽化に伴う維持管理費の増加も必至で、今後40年間に係るコストは年平均約50億円とも言われている。」ということでした。

■鎌倉市の収入を増やす方法
 比留間部長の話の後、収入を増やす提案が次々と出ました。緑税や観光税の創設、観光協会再編、観光客用トイレの有料化、新産業を興す、IT企業を集めシリコンバレー化、優良事業者の流出を防ぐ、京都のように修学旅行生が買いたいものがある町に、良い商品をつくる、産業基盤を変える、夜に対応、宿泊施設を増やしお客をキャッチ、物品販売の数%を市収入に、観光と商業のまちの色分け、大船は若い人が住める、若い人に住んでもらう、マンションが並ぶまちでもいい、イギリスバースではマンションが緑と調和している、など。

■山・海とまち、その趣と理に対する提案
 A1テーブルの結論は、「市には努力を惜しまず山と海の保全のための収入を増やしてもらいたい。が一方で、市民は市の状況を考えお金がないことを前提に、ボランティアに精を出すことにしよう。ボランティアを増やす啓発活動をしよう、定期的な広報活動やイベントを催そう、交通費支給などの有償化も検討しよう」、となりました。

■まとめ
 市の緑化推進専門委員の方の文章、「開発から守られた緑地の状態を調べると、長年放置されてきたために、林縁や林床が荒れ、笹が茂り過ぎ、スギやヒノキの植林に倒木が目立つ場所も多く見られます。保全が決まって知名度が上がり、訪れる人が増えたことで踏み荒らされたり、心無い人に貴重な動植物が持ち去られたりする例も。水系環境の悪化で、谷戸全体の乾燥化も見られます」を紹介します。
 市に緑の基本計画はあっても、手を打たなければ夢を描いているに過ぎません。私は定期的に常盤山を歩き道を確認していますが、倒木や笹の繁茂に荒廃を感じています。身近にある山、木や草花、海とその生物を知り、風土を知ること、これは人間として基本的な事がらだと思います。宝といえる豊かな自然を守り、次代に引き継ぐ方法を真剣に考えましょう。ふと立ち止まり周囲の自然に目をやってください。
 以上、みなさんにお願いします。
(山村みや子)

■補足意見
 現在、鎌倉市の豊かな自然が保たれている大きな理由として、市民の方々などにより、積極的に自然を守るための活動が行われていることが挙げられます。しかし、一方で保全しなくてはならない自然の「量」は、そういう市民活動の対応能力を超えているという状況にあります。
 こうした状況を踏まえ鎌倉市は、「緑の基本計画」 で次のような考えを示しています。
 『現在は「緑の量」を確保する時代から、「緑の質」を充実させようとする時代への転換期にあり、・・・市民をはじめとした多様な主体との連携の充実を図ることにより、緑の質の充実に努めていくことが強く求められています』
 この「緑の質」を充実させるためにも、鎌倉市と自然を守るために活動している方々とが、身近にある自然とその保全活動を多くの人々に知ってもらい、その保全活動に参加しやすい仕組みを作ることで、今ある活動をさらに増進させていかなければならないと思います。
(岩城秀卓)

テーブルAの話合い A-1テーブルの話し合い
左から二人目が山村さん、その右が岩城さん

 
テーブルA-2 タイトル

 A2テーブルは市内から2名、市外から2名の計4名の参加でした。
 はじめに自己紹介を行いました。進行役からは、今回のテーマである「趣」 (1‐そのものが感じさせる風情。しみじみとした味わい。 2‐全体から感じられるようす・ありさま。)と「理」 (1‐物事の筋道。条理。道理。当然である様。 2 わけ。理由。)について辞書の内容をもとに説明しました。

■前半
 前半部分では、主に鎌倉の「趣」について意見を述べ合いました。
  • ○海、山が見える。
  • ○観光資源が多く、それらを含む風景が景観となっている。
  • 〇「鎌倉らしさ」として、古都の中では京都、奈良にはない海がある。
  • 〇鎌倉の山と海は中世から変わらないものであり、重要なアイテムとなっている。
  • 〇目に見えるものの積み重ねが「趣」になっている。
  • 〇歴史や文化も外すことは出来ない。
  • 〇市民も地域の歴史等を勉強していて地域に愛着を持っている。
  • 〇まちに対する教育があり、まち中の清掃やもてなしの行動等を、人々が自発的に行っている。
  • 〇海から見た風景-山と海と空が良いバランスで見える。
  • 〇まちに関しては、歴史があり新しいものと古いものが混在している。
  • 〇このまちに、映画のセットのような、つくりものが建ってはいけない。
  • 〇地域の歴史や現在の周辺状況を考えたまちが良い。
  • 〇新しい建築物もまちに、合っているものが多い。
  • 〇山、海は中世から変わっていない。その中にまちがある。
  • 〇歴史を踏まえたイノベーションが出来ている。
  • 〇まち全体が新旧一体になっている。
  • 〇教育、文化や新しいものを認める考えが整っている。
  • 〇山・海とまちが良い感じでパッケージされている。
 前半では、鎌倉の「趣」を中心に話が進み、「山・海とまち」が良い感じでパッケージされている、との統一的な見解が見出されました。
 後半は、「理」を踏まえる話し合いを行いました。

■後半
 「理」は、「当然である様」という意味があることから、「山、海とまち」の包含するものについて話し合いました。
  • ○山、海は必然。しかし、自然だけとは限らない。
  • ○「本物」が必要 ⇒ 本物とは?
     →歴史(積み重ねたもの、培ってきたもの)
     寺社などのハード面もあるし、おもてなしの気持や教育などのソフト面もある。
  • ○情報発信の重要性。
  • 「まち」
  • ○経済活動の場、財政力を生み出す場である。
  • ○住んでいる人の満足感が重要であると考える。
  • ○住み続けることのできる世界遺産を目指すべき。話し合っているが、反映されていない。
  • ○市民等とのパートナーシップが、今後とも必要。
  • ○景観やみどりについては、市民の「誇り」である。
  • ○新旧のものが一体となって良いものになることが必要。
  • ○防災・減災を考えて大胆な提案が必要。
  • 「山」
  • ○山や自然の緑については、世界遺産としてとらえるべき。 古都保存法で守られているものだが、今後は手入れが必要と考える。
  • ○古都法は制定から40年以上経っている。現代風に内容の見直しをしていくことも必要と考える。
  • 「海」
  • ○世界遺産は、海について冷やかな状況となっている。
  • ○由比ガ浜は、日本の海水浴発祥地であり、これも文化の一つと考える。
  • ○海岸線(国道134号沿い)は風景も良く、鎌倉の要素の一つでもあるから、昔あった松を植えるなど修景を行うことが大切である。
  • ○東日本大震災の津波状況を考慮すると、今後の海沿いの防災対策を考慮した都市計画を考える必要がある。
  • 〇防災、減災を考えて大胆な展開が必要。
  • ○海沿いの道路の上に蓋(盛り土)をし、そこに樹木を植えて「森の長城」にする。砂浜から森の長城まで一連のレクリエーションの場にすると、緑の環境と津波防災の2つの役が果たせる。
関沢さんによる中間発表
  関沢さんによる中間発表
 後半に、世界遺産登録後の「山・海とまち」をどのように保持するのか、防災・減災の考えをどのように鎌倉に適用すればよいか、などに関して積極的な意見が出てきました。
 また、山・海とまちに思いを持つ人たちが集まり、ハードとソフトの対応の良い部分を引き出し、それらをつなぎ合わせ、全体的な山の保存の重要性が確認される一方、管理行為を考えた山の使い方や海沿いの修景による防災・減災対応、建物混在の状況の誘導などと、住んでいる人々を考えて、「山・海とまち」のパッケージ化された状況を守っていくこと、が確認されました。
(関沢勝也)

■補足意見
 今回、3年振りにワークショップへ参加する機会を得ました。本テーブルでは、ワークショップのメインテーマにある「趣」と「理」という語の本来の意味を確認した上で、具体的に意見交換を開始しました。終始建設的な意見が出され、市外の方からの客観的な視点も提供されて、興味深い内容にまとまったと思います。
 「武家の古都・鎌倉」の世界遺産登録について考えていると、どうしても「山とまち」に意識が向きがちです。しかし、本テーブルでは、思いのほか「海」に対しての意見が多く出され、その存在の大きさを改めて認識しました。
A‐2テーブルの話し合い
  A‐2テーブルの話し合い
 普段、鎌倉世界遺産登録推進協議会の事務局職員として、市民委員の皆さんとお話をする機会は多いのですが、今回のように、鎌倉の根幹となる山・海・まちについて意見交換を行うということは、これまでなかなかありませんでした。世界遺産登録後を見据えて、市内だけでなく、市外の方々も交えた今回のような意見交換の場というのが、今後更に必要になってくるのではないかと感じています。
(金子智哉)


 
テーブルB-1 タイトル
■第一部(意見交換)
 参加者5名は全員鎌倉市在住であった。
  • ○ 観光と生活と対立することがある。世界遺産になっても生活は変わらないと感じている。住んでいると不便な街だがこれでよいと思っている。
  • ○ 子供を育てるには海や自然が近くにあり環境はよい。東京に近くて治安もよく恵まれている。買物は不便だが日用品には特に不便を感じない。行政施設も近くにあり徒歩圏でほぼ完結し生活はしやすい。
  • ○ 車を使わず徒歩で用を済ませている。土日休日は車が混む。観光シーズンはなおさら。人が来ることで市民も元気になる。相反するもののバランスをどのように作っていくかだ。
  • ○ 昼のにぎわいと夜の静けさとのコントラストが良い。
  • ○ よく散歩する。北鎌倉は歩くと素晴らしいが歩道が狭いのが致命的だ。横須賀線の地下化を提案したい。
 参加者の発言が一巡した後、話題は交通問題が中心となり、観光客が増えるのは仕方ないが、これ以上増えると生活ができないので、交通量を減らす工夫が必要だ。
 それには、車で鎌倉に行くには時間がかかるなどと、観光客の意識を変える工夫がいるだろう。
 鎌倉市専用の車両ナンバーを作れないか、パーク&ライドを利用している観光客はごくわずかである等々の意見が出て、パーク&ライドには税金に頼らない利用特典をもっとつける提案などが出た。
 便益を受けている人からペナルティーを取る、市役所に何でも頼むのは無理等々、アイデアや意見も出された。そして最後に、観光客にもっと優しい街にする(例えば若宮大路にはトイレもない)などの意見が出され、第一部は終わった。

■第二部(意見のまとめ)
【トイレの問題】
 トイレを使う側の、観光客としてのマナーが悪い。観光客用のトイレを税金で作る必要はあるのか。公衆便所を商店街に作るのは街並みとしてはどうか。コンビニのトイレは自由に使えるので混雑している。既存施設(店舗)をもっと活用できないか、など。
 いずれにせよ、観光客のマナーの向上によるしかない、となった。
 次に、中心の議題となった【交通の問題】
 ロードプライシングを導入できないか、から始まって、IT革新は速いので料金徴収システムの構築は数年で可能であろう。市民を判別するために住基カードを利用できるようになるのではないか。正月の規制をシステム化する、などの提案が打ち出された。
 またパーク&ライドの提案もあり、今も観光バスは梶原通りに止まっているが、野村跡地を駐車場利用できないか。美術館博物館は東京に任せればよい。旧鎌倉全体を公園としてとらえて歩く観光を発信、土日は若宮大路を歩行者天国にし、段葛を海まで伸ばす提案もあった。
 他には、【江ノ電の活用方法】
 江ノ電を路面電車にして北鎌倉まで延伸する。
 【JRの地下化とともに駐車場を作る】などもあったが、一方でJRの地下化は反対という意見もあった。
 【観光会社へのアピール】
市が歩く観光推奨ルートを提案し、鎌倉の現在と過去の関係を周知する地図を作成したらどうか。
 【鎌倉市の未来】
 10年後、20年後の市民の生活を考え、観光からの収入や若者の定住等、今住んでいる人と今後住む人の暮らしが成り立つようにする。それには、今市内に4000件程もある【空き家問題】に取り組めば、解決策が見いだせるのではないか、というところの辺で時間切れとなった。

征矢さんによる最終発表
  征矢さんによる最終発表
 観光と住生活には車問題が常に付きまとう。ハードの整備のほか、ロードプライシングやパーク&ライドの提案も当然としてあるが、世界遺産登録を見据えて、まち側から訪れる方や観光会社に対し、歩く観光推奨ルートを積極的に仕掛けていく、などの 【ソフトの提案】は今後の展開が期待できそうで印象 的であった。
 観光と住生活を論ずるこのテーブルでは、観光交通と市民生活の関係を持続可能な仕組みで未来に 繋いでいくことについて楽しく語られた。
(征矢剛一郎)


■感想
 初めてこのワークショプに参加させて頂き、大きく3つのことを感じました。
 1つ目は、参加者の方々はそれぞれ考えている事は違っても、鎌倉をより良くしたいとの思いは同じということです。人によって述べる意見はもちろん違 うのですが、その意見の先に鎌倉をより住みやすく、より魅力ある街へ、という強い思いを感じました。
 2つ目は、テーマをしっかりと決めて場を設ければワークショップは活性化するということです。参加者の方々はお互い面識は無いのですが、「観光と住生活」というテーマに対して多くの意見がでました。自分の意見を述べる方、人の意見に対して同調する方、意見をまとめる方と、時間が足りない中でよく盛り上りました。
 3つ目は、このようなワークショップに参加する事により、さまざまな刺激を受けるという事です。
 日常、仕事関係の方や同年代の方としか接する機会が少なく、どうしても自分の考え方の幅が狭くなります。しかしこのようなワークショップに参加することにより、日常接する機会の少ない方の意見、自分とは違った意見を聞けるなど、自分の考え方の幅を広く出来た気がします。
 今後このようなワークショップがありましたら、積極的に参加したいと思いました。
(鎌田宏司)
B-1テーブル 木下先生を迎え話し合いが進む
  B-1テーブル  木下先生を迎え話し合いが進む


 
テーブルB-2 タイトル

 B−2テーブルでは、「観光と住生活」をテーマに、第一部で議論の方向性を見つけ、第二部で最終発表のまとめを行うといった流れで意見交換を行いました。

■参加者の紹介
 B−2テーブルの参加者は、市職員である進行役と進行補助の他、前回のワークショップにも参加して頂いた方が3名、交通渋滞解消などの調査・検討を行っている交通計画検討委員会の委員の方が1名、市内在住の市職員が1名の計7名で意見交換を行いました。
 最初に簡単な自己紹介と今回のワークショップに参加した思いや考えを伺いましたので、簡単に紹介します。
 A氏:鎌倉に住んでいる人は、皆さん鎌倉に住みたいと思って住んでいるのだから、観光という部分についても受け入れるべきであり、観光客と住民は対立するものではない。
 B氏:A氏の意見に関連して、鎌倉に住みたいと思って住んでいる人の中にも、家を覗かれるなど、観光客に対してあまり良いイメージを持っていない人もいる。
 C氏:鎌倉は道路が狭いのに車が多く通る。また、歩道も狭いため歩行者が車道を歩いていることもあるが、世界遺産に登録されれば世界中から観光客が来るため、何とかしなければいけない。
 D氏:交通問題対策として道路を拡幅するべきではなく、路地文化を大切にするべきであり、歩いて観光するのもいいと思う。また、鎌倉市民は昔から鎌倉を守ろうとする意識が高い。世界遺産登録は観光のためのものではない。登録後も景観を崩すことなく守っていくためには、継続した活動が必要である。
 E氏(市職員):世界遺産に登録されると観光客が増えたり、交通量が増えたりすることを懸念される問い合せが多い。そのため、交通問題は市全体で考えていかなくてはいけないのではないか。

■意見交換
 ひと通り参加した皆さんの思いや考えを伺った後、アドバイザーの赤川先生から「観光と住生活は対立するものか両立するものかどちらと考えるのかが重要」とのアドバイスがあり、それを踏まえ、今日のテーブルテーマ「観光と住生活」について意見交換を行いました。
 第一部の傾向としては、交通問題に関する意見が多く、かなり具体的な意見も出されていましたので、中間発表で報告した意見を紹介します。
  • 鎌倉を広域的に見て、八幡宮前交差点を基点 に朝比奈方面から八幡宮前交差点まで、また八幡宮前交差点から北鎌倉方面へそれぞれを一方通行にして外周道路のような形態を造れば渋滞が緩和するのではないか。
  • 横須賀線を地下化すれば渋滞が緩和し、現在の線路敷の有効利用も図れるのではないか。
  • 鎌倉地域に入るのに規制を設ければ渋滞も緩和するのではないか。
  • 規制を設ける場合には、特別な配慮はせず、当然のこととして実施しなければいけない。
  • 鎌倉が世界遺産登録地だという意識を市民も持たないといけない。
  • 鎌倉地域を大きな公園にたとえ、その公園を市民がみんなで維持していこうという意識を持つべきではないか。
  • 都市計画から見直す必要があるのではないか。
 後半の第二部では、第一部を踏まえ、交通問題に関する意見についてまとめることでスタートしましたが、だんだんと交通問題だけでなく、住民意識やまちづくりといった意見に発展したため、最終的には「交通」、「意識」、「まちづくり」の3つのキーワードを基に意見交換を行い整理しました。

■最終発表
大江さんによる最終発表
  大江さんによる最終発表
 最終発表で報告した意見を紹介します。

「交通」について
 交通問題解消のためには、歩くまち鎌倉の推奨と車の流入規制が必要である。しかし、流入規制を実施するには、規制エリアの外側の巨大駐車場整備や、公共交通の充実、車でなくては移動できない方、いわゆる交通弱者への配慮も併せて必要です。
 最終発表では報告できませんでしたが、規制エリア内の交通量の抑制策として、規制エリア内の住民がエリア外の駐車場を基点に、カーシェアリングを実施するという、流入規制とは逆の発想の意見も出ました。

「意識」について
 来る人を受け入れるという意識を持つと共に、鎌倉に住んでいるというプライドや余裕を心に持ち、観光地としての鎌倉を理解しなければならない。
 市民意識を高めるための具体的な方法として、鎌倉地域に限定することなく各地域でタウンミーティングを開催する。それにより新たな意見の発掘にも繋がるのではないか、という意見もありました。

「まちづくり」について
 鎌倉は歴史・文化都市と経済都市が融合している都市であるため、地域ブランドの向上など他都市とは違う方法でまちづくりを考えていくべきです。
 地域ブランドを高める具体的な方法として、建ぺい率をより厳しいものにして、まちに高級感を持たせるなどの意見、トイレ問題、防災対策、宿泊施設の誘致などの「観光客おもてなし」という目線での意見も出ました。
 今回のワークショップは、参加した皆さんの積極的な発言と協力のおかげで、理想的な意見交換ができたように思います。
 特に第2部では「交通」の意見が「まちづくり」の意見に広がり、その意見が「意識」の意見へと広がり、最後は「交通」に戻るといった、意見の発展や連動が見られ、さらに参加した皆さんの鎌倉に対する熱い思いも感じることができました。
 最後となりますが、赤川先生からの「観光と住生活は対立するものか両立するものか、どちらなの か」という問いに対しては、私たちのグループに おいては、間違いなく「両立するものだ」と言えるのではないでしょうか。
(大江 尚)


■補足意見・感想
 「観光と住生活」をテーマにして、観光地としての鎌倉についての意見交換に参加したことによって、鎌倉独自の問題点や想定外だった意見を聞くことができ、住人の方々の鎌倉のまちづくりに対する積極的な姿勢を実感しました。
 鎌倉市を世界遺産にすることによって生じるデメリットについて、市民の方々からの意見を聞くことがありますが、今回のワークショップでは一概に批判するのではなく、観光客増加に対する解決策を考え、実行しなくては、という前向きな意見が多かったと思いました。
 中でも印象的だったことは、宿泊施設を増やし、さらにじっくり鎌倉を観光して欲しいという意見でした。そして、宿泊施設に市内の歴史的建造物を利用し、文化の活性化を促す意見もありました。
B‐2テーブルの話し合い 
中央に木下先生、その右に大江さん、落合さん
  B‐2テーブルの話し合い 中央に木下先生、その右に大江さん、落合さん
 市民の方々は当然のことですが、一番に自分自身の生活を守りたく、そして同じように、大好きな鎌倉を多くの人と共感したいと思っています。
 今回のワークショップを通して、住生活と観光の両立を実現するために、市民と市職員が如何に協働するべきか、を学ぶことができ、貴重な体験をすることができました。
(落合良恵)


 
テーブルC タイトル

■参加者の顔ぶれ
 総勢8名、Cグループは一卓だったので、一番人数が多い。まずは簡単な自己紹介をしあった。
  • Aさん(男性) 元市役所職員。鎌倉市民同窓会に所属。鎌倉の湧水など郷土史を趣味で研究する。
  • Bさん(男性) 居合や薙刀、華麗な空中技、伝統芸能と和楽を組み合わせた「武楽(ぶがく)」を主宰する。
  • Cさん(男性) 海の近く、七里ガ浜に在住。ワークショップ参加は2回目である。
  • Dさん(女性) 鎌倉に住んで30年。「図書館とともだち・ 鎌倉」の代表をつとめる。
  • Eさん(男性) 鎌倉市在住のジャーナリスト。元読売新聞海外特派員。危機遺産・現代中東論を研究する。
  • Fさん(男性) 鎌倉に住んで60年。近所が博物館の候補地になり、興味を持ち参加した。
  • 草場さん(男性) 進行役。お隣の栄区在住のメーカー技術者。鎌倉検定1級に合格した鎌倉通。
  • 能登原・筆者(女性) 進行役。鎌倉FMで世界遺産の番組を担当。大学で中世史(鎌倉時代)を専攻。
■登録の可否にかかわらず文化を伝える
 今回のテーマが「世界遺産登録後の鎌倉を見据えて」ということだが、登録されなかった時はどうするのか?という疑問から入った。
 登録されてもされなくても、文化を伝えていくことには変わりないので、Cテーブルは登録の可否にこだわらず話を進めていくこととした。

■鎌倉の文化は時間軸を含めて幅広い
 Cテーブルで話し合うテーマは「文化都市を目指す」であるが、鎌倉における文化都市とは実際どういうものか、具体的に挙げてみた。
 例えば禅文化など目に見えないものもある。また、武道そのものも文化である。もちろん鎌倉時代だけでなく、景勝地として盛り上がった江戸時代、明治以降には横須賀線開通や郵便電信局開設があり、政治家・富豪の別荘などが増え、文学者も含めて沢山の人々が集まり、鎌倉カーニバルも盛り上がった。
 日本初のナショナルトラスト運動となった御谷騒動に代表される住民運動も、鎌倉の文化であろう。このように少し挙げるだけでも鎌倉の文化は時間軸も含め巾広いことがわかる。縄文時代から今にいたる文化の変遷を、市民レベルで知る必要がある。文学・民俗など分断されて紹介されることはあるが、総合的でないのであまり伝わってこない。鎌倉の文化遍歴の時間軸を総合的に示す民俗資料館のようなものが地元にあるべきだ、と話は進んだ。
 民俗だけでなくもっと広い意味で「歴史資料館」「資源資料館」など、名前は工夫すべきだがここでは一応「文化資料館」と言うこととした。この「文化資料館」には、市内外にある鎌倉ゆかりの品を集め、展示する。しかし静的展示に留まらず、大人も子供も楽しめる映像を使うような動的な情報発信もしたい。例えば、海外の人々に解かりづらいSAMURAIの定義を、バーチャルを駆使して伝えられたらよい。年に数回しかない流鏑馬も映像で紹介したい。
 武士は戦うだけのイメージがあるが、もっと高い精神性を持った集団であることを伝える手段になり得る。そのような動的な情報発信に期待したい。

■価値ある文化財もバッファゾーンの役をする
 地図に竹島が載る、日本にとって重要な資料もあるのにあまり知られていない、残念だ。こうした価値のある文化財が沢山ある。これらは広い意味のバッファゾーンのつもりで取り組むべきだ、という意見が出た。
 中世・近世・現代のまちの姿を残し守るためには、やはり市民レベルで海・山を守る取り組みをすべきだ。また武道自身も文化であるのに、鎌倉の文化芸能はあまり伝わっていないという意見も出た。流鏑馬のような神事は見られるが、「武家の古都」と言っても武家を感じるものがあまり見えない。こうした部分には今後力を注いでいかなければいけない。

■図書館や公文書もきちんと保存すべきである
 鎌倉の図書館をより良くしようと活動するDさんは他国と比べてこんな意見を出した。
 イタリアのフィレンツェや、チェコのチェスキークロムロフはどちらも世界文化遺産に登録されているが、街の中心に図書館があり、そこに街の資料が残っている。鎌倉もそのように街の中心地に公共の図書館が必要だ。鎌倉の公文書は津波で被害を受ける恐れがある地下に保存されている。
能登原さんによる最終発表
  能登原さんによる最終発表
 いつ津波があるかわからないので、鎌倉の貴重な資料を護るべく、一日も早く被害を受けなそうな場所に移す必要がある。文化都市を目指すならこうした埋蔵資料を護らなければいけない。今年の秋、図書館や国宝館など文化に関わるところが事業仕分けの対象になった。文化都市としてアピールしていこうとしているのに、このような後ろ向きな姿勢はおかしい。間違った方向に動き出しそうな時は、昔のように市民が声をあげるとよい。鎌倉には行政をムチ打ってきた住民運動の歴史がある。行政は市民と共に動くべきである。

■世界に発信するユニークさがあってもいい
 石見銀山のように交通規制をするとか、周辺の車しか入れないようにするのも一つの案であり、ベネチアのように車を全く入れないとか、シンガポールのようにゴミを道に落としたら罰金を払うというように、鎌倉の文化を護る、よく考えた文化政策があってもよい。世界に発信するユニークさがあってもよいのではないか。また、車に「鎌倉ナンバー」を作ろうという提案もあり、それには賛成の声が多かった。

■鎌倉の緑が減っている
 Fさんは、60年鎌倉に住んでいるが、昔に比べ緑が減ったと感じている。山の向こうの海が木々の間から見え出したことに危機感を覚えている。
 これ以上緑地が減らないように早急に対策を立てなければいけないという意見。
 鎌倉の良さは三方を山に囲まれたこの山の部分なのに、住宅が増え緑は減っている。バッファゾーンでも、元治苑跡地にマンションが建てられるが、止めることが出来ない。これからは守られる所と開発する所を、きちんと考えていかなければならない。そのためには規制強化も必要となるが、文化都市には、何より住民の高い意識が必要である。

■赤川先生と木下先生のコメント
赤川先生は過疎化が進む地方へ行く機会が多い、そこでは何が魅力か、考えるのに苦労している所が多い。しかし鎌倉は色々な魅力がある。これは贅沢なこと、鎌倉が世界からどう見られているか?を考えてみるとよい。考えれば考えるほど、色々な見せ方が出てくる。見せ方は沢山あった方がいい、鎌倉のさまざまな魅力を生かして欲しい、と発言。
 木下先生は、10年〜20年後を考え、次世代に定着する仕掛けを作る。要は、若い人が定着する仕掛けをしていく。それが文化都市づくりである。鎌倉では一軒家の空き家が増えているが、ちょうど、若い世代で古民家を求めている人がいるので、こういう次世代の方々に入ってもらうのはとてもいいこと、などと発言された。

■能登原・草場のまとめ
 ハイキングの愛好者、鎌倉の歴史や鎌倉文士を好む人、茶道体験や鎌倉彫などのものづくり体験、仏教文化に触れる寺社巡り、鎌倉野菜、いろいろと興味を引くものがある町なので、多くの方々に来て頂くことができるように、「武家の古都」に限らず多重な文化価値があることを、まず、私たち市民が認識しなければならない。
 また北鎌倉の古刹で現在も息づく坐禅修行に触れることが出来る、こういう訪問者に開かれた歴史的・文化的魅力も、もっとアピールする方がいい。
Cテーブルの話し合い
左から2番目が能登原さん、右が草場さん
  Cテーブルの話し合い左から2番目が能登原さん、右が草場さん
 「文化資料館」は観光客向けだけでなく、市民の意識を高めることにも繋がる。私たちの意識が高まり、文化都市として誇りを持ち守るべきものを守り、後世に伝えていくことになるので、「文化資料館」はぜひとも建設することにしたい、となった。
 だが、図書館といい資料館というが、それらを入れる「器」が文化都市、そこに先生方が言われたように「若い人」が居て、色々活動している。鎌倉はそのような町になればよい、と感じました。

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