切通は、武家が自然地形に積極的な働きかけを行い、防御的な政権所在地の整備の象徴となるものであり、「武家の古都・鎌倉」の資産を最も特徴付ける要素です。「三方を山に囲まれた鎌倉」の陸上交通路として、尾根を垂直に掘り下げ、その底面を路面とする特徴的な構造を持ち、効果的な防御システムを構築していきました。
朝夷奈切通は、鶴岡八幡宮から東方約2.8㎞の位置に、鎌倉市から横浜市金沢区にまたがって所在し、東の要衝称名寺と鎌倉を結び、防御を重視した政権所在地造営の一環として建設されました。
現存する切通路は全長約0.9㎞に及び、路面はそのほぼ全域で斜面を垂直近くに切り下げて造営されており、特に鎌倉・横浜市境の大切通では現状で高さ約18mの人工崖が残され、横浜市側の小切通では高さ約16mの人工崖が残されています。また、切通路の周囲には多数のやぐら、切岸、削平地などの遺構が、旧地形とともに、良好な状態で保存されています。
『吾妻鏡』によれば、朝夷奈切通は、1241年に第3代執権北条泰時自らの監督の下に建設されました。江戸時代には、江戸から金沢を経て鎌倉に入る観光ルートとして頻繁に利用され、19世紀前半には大規模な修造工事が加えられました。現在の切通路はこのときに整備された状況をとどめています。
鎌倉市十二所・横浜市金沢区朝比奈町
(鎌倉市側)
JR鎌倉駅東口5番バス乗り場から「鎌倉霊園正門前太刀洗」「金沢八景駅」行きで「十二所神社」下車徒歩約25分
(横浜市側)
京浜急行・金沢シーサイドライン金沢八景駅より、国道16号線沿いバス停「金沢八景駅」から神奈川中央バス「大船駅」「上郷ネオポリス」「庄戸」行き、またはバス停「金沢八景」から京浜急行バス「鎌倉駅」行きで「朝比奈」下車徒歩約5分
車両での通行はできません。
まんだら堂やぐら群
鶴岡八幡宮から南東約2㎞に位置し、鎌倉市から逗子市にまたがって所在する名越切通は、鎌倉の南東、逗子を経て三浦半島へと向かう要路に建設された切通です。現存する切通路は全長約0.5kmですが、鎌倉市・逗子市境の近辺では、切通路がクランク状を呈する箇所があり、逗子側の出口付近では高さ約10mの崖面を形成するなど、防御性を考慮した構造的特徴をとどめています。周辺にはまんだら堂やぐら群を始めとするやぐらが濃密に分布します。
まんだら堂やぐら群は、標高約80mの尾根から南西に傾斜する斜面をほぼ垂直に切り落として造成された崖面に、三段から四段の列をなし、約100mにわたって造営されています。現在までに確認されたやぐらは160基を越えますが、さらにもう一段のやぐら列が埋没していることが確認されており、鎌倉でも最大規模のやぐら群です。このやぐら群は、特に群集する傾向が強く、床面積数㎡の小規模なやぐらが段をなして開口する様は、安置された五輪塔の多さと相まって、特異な葬送空間を現出しており、その光景は圧巻です。
『吾妻鏡』の記述から、13世紀前半には開通していたとされ、朝夷奈切通同様に19世紀前半までは、鎌倉と横須賀・三浦方面を結ぶ主要道として使い続けられていました。
鎌倉市大町五丁目・七丁目 逗子市小坪七丁目・久木九丁目
JR鎌倉駅東口3番バス乗り場から「逗子駅」「緑ヶ丘入口」行きで「緑ヶ丘入口」下車徒歩約8分
JR逗子駅6番・7番バス乗り場・京浜急行新逗子駅3番・4番バス乗り場から「亀が岡団地循環」「鎌倉駅」行きで「緑ヶ丘入口」下車徒歩約8分
まんだら堂やぐら群は、現在公開活用に向けて整備中です。
鶴岡八幡宮から北約1.2㎞に位置する亀ヶ谷坂は、建長寺及び円覚寺が所在する山ノ内と鎌倉中心部を結ぶルートとして開削された切通であり、現在も生活道路として利用されています。
切通路頂上付近は、高さ約20mの崖が造り出されており、大規模な切通造成が行われたことを物語っています。また、南側の約100mの間は、高さ2~3mの崖が連続して造られています。
亀ヶ谷坂の開削時期は未詳ですが、1202年に鎌倉幕府2代将軍源頼家が、山ノ内からの帰路「亀谷辺」で落馬したことが『吾妻鏡』に記されており、すでにこの頃には亀ヶ谷坂が使われていたことが推定されます。
鎌倉市扇ガ谷二丁目、山ノ内
JR鎌倉駅西口から徒歩約15分
JR北鎌倉駅から徒歩約15分
自動車での通行はできません。
鶴岡八幡宮から南西約1.4㎞に位置する仮粧坂は、扇ガ谷から関東地方へと続くルートとして開削された切通路で、現存部分は約0.5㎞にわたって、斜面片側を削り取って造営されています。切通路周辺には山陵部を大規模に切り削った大堀切跡や多くのやぐらが存在します。
『太平記』によれば、1333年の新田義貞による鎌倉攻めの際、義貞と弟の脇屋義助率いる本隊が、仮粧坂から鎌倉市中へ突入しようとしたが、守備軍の前に迂回を余儀なくされたことがわかり、実際の戦闘で切通が効果的な防御機能を果たしたことが理解されます。
鎌倉市扇ガ谷四丁目、山ノ内他
JR鎌倉駅西口から徒歩約20分
鶴岡八幡宮から南西約2㎞、鎌倉大仏の北西約0.4㎞に位置する大仏切通は、鎌倉から京都方面へと向かう幹線経路の一つが、鎌倉西部の山を越える場所に位置します。現存する切通路は、全長約0.5㎞で、東西に伸びる尾根に沿って設けられています。周辺には堀切や削平地が残り、その中にはやぐらを伴うものもあります。
開削時期は不詳ですが、1238年に鎌倉大仏が建立される以前に、すでに開削されていたとみられます。
鎌倉市常盤・長谷四丁目・笛田六丁目
江ノ島電鉄長谷駅から徒歩約15分