「武家の古都・鎌倉」は、武家政権所在地の整備に大きな影響を与えた要害的地形を示す山稜部と、その山裾や谷間などに造られた神社・寺院などの重要な要素により構成されています。
重要な要素は、11の神社・寺院と、10の寺院跡・武家館跡・切通・港跡の考古学的遺跡ですが、これらは、武家が鎌倉に政権を樹立した12世紀の終わりから14世紀前半までの約150年間、いわゆる鎌倉時代に形成されたものです。鎌倉は武家政権発祥の地として、鎌倉幕府以降の武家政権からも手厚く保護されました。「武家の古都・鎌倉」の山稜部や重要な要素は、往時の姿を今によく伝えています。また社寺においては、現在でも武家文化の伝統を保持しつつ、宗教活動や関連行事が営まれています。
なお、資産は、山稜部や港跡など物理的に分けられた10のパーツに分けて設定されておりますが、これらが総体として「武家の古都・鎌倉」の価値を示すものであります。
「武家の古都・鎌倉」を構成する山稜部のほとんどは、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」(「古都保存法」)に基づく「歴史的風土特別保存地区」に指定されています。この指定により、現状地形の改変等が制限され、古来の旧地形が樹林とともに保全されています。
社寺や切通などの全ての重要な要素は、文化財保護法に基づく史跡に指定され、保護が図られています。さらに、各重要な要素内の多くの庭園や建造物等も、文化財保護法に基づいて史跡・名勝・国宝・重要文化財に指定されています。
1964年、鎌倉の中心である鶴岡八幡宮の裏山(御谷地区)に宅地造成計画が持ち上がり、これに反対した市民・学者・僧侶達が、署名運動や募金活動を展開しました。約1年間に及ぶ地域ぐるみの保存運動は、開発計画を断念に追い込むとともに、募金による土地の買上(日本初のナショナルトラスト運動)という成果を上げました。
この運動が契機となって、1966年には古都保存法が制定されました。古都保存法の制定は、鎌倉が日本における古都の歴史的風土保存運動の発祥地であるとともに、「武家の古都・鎌倉」が現在に至るまで市民の努力によって保存が図られてきたことを象徴しています。
このように鎌倉では、これまでも先人たちにより、歴史的遺産や周辺の自然環境を守る努力が積み重ねられてきました。現代に生きる私たちには、受け継がれてきた日本文化の礎ともいえるこの歴史的遺産や自然環境を確実に保全し、未来へ伝えていく責任があります。
世界遺産登録の意義は、まさに、「武家の古都・鎌倉」を確実に未来へ継承していくことにあるのです。
緩衝地帯は、世界遺産に登録される資産の景観や環境を保全するために、その周囲に設定される区域のことです。下の地図では、黒太線で範囲を示しています。
緩衝地帯そのものは、世界遺産として登録される区域ではありませんが、資産の環境や状況に応じて、建物の高さ規制などを定めた法令により、適切に確保することが求められています。
鎌倉では、新たに法規制を設けることなく、古都保存法、景観法、風致地区条例など現行法令で定められている規制が守られることで、世界遺産登録に必要な緩衝地帯としての要件が満たされると考えています。
法令等 | 内容 | |
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1 | 古都における歴史的風土の 保存に関する特別措置法 (歴史的風土保存区域) |
※届出制
※罰則規定あり(過料) ※制限の内容 ・建築物その他の工作物の新築、改築又は増築 ・宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更 ・木竹の伐採 ・土石の類の採取 等 |
2 | 古都における歴史的風土の 保存に関する特別措置法 (歴史的風土特別保存地区) |
※許可制 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・建築物その他の工作物の新築、改築又は増築 ・宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更 ・木竹の伐採 ・土石の類の採取 ・建築物その他の工作物の色彩の変更 ・屋外広告物の表示又は掲出 等 |
3 | 都市計画法 風致地区条例 (風致地区) |
※許可制 ※罰則規定あり(罰金) ※制限の内容 ・建築物その他の工作物の新築、増築、改築又は移転 (許可基準として建物高さが8m(一部10m又は15m)) ・建築物等の色彩の変更 ・宅地の造成、土地の開墾その他の土地の形質の変更 ・水面の埋立て又は干拓 ・木竹の伐採 ・土石の類の採取 ・屋外における物件のたい積 等 |
4 | 景観法 (景観地区) |
※認定及び建築基準法による確認 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・建築物及び工作物の意匠、形態 ・建築物の高さ (15m) 等 |
5 | 景観法 (景観計画区域) |
※届出制及び勧告・変更命令 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・建築物及び工作物の意匠・形態 ・建築物の高さ 等 |
6 | 森林法 (保安林) |
※許可制 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容(同法第34条他) ・立木の伐採、損傷 ・家畜の放牧 ・下草、落葉若しくは落枝の採取 ・土石や樹根の採掘、開墾その他の土地の形質の変更 ・立竹の伐採 等 |
7 | 都市緑地法 (特別緑地保全地区) 首都圏近郊緑地保全法 (近郊緑地特別保全地区) |
※許可制 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・建築物その他の工作物の新築、改築又は増築 ・宅地の造成、土地の開墾、土石の採取、鉱物の掘採その他の土地の形質の変更 ・木竹の伐採 ・水面の埋立て又は干拓 等 |
8 | 都市計画法 (高度地区) |
※建築基準法による確認 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・建築物の高さ(15m) |
9 | 都市計画法 (用途地域・第一種低層住居専用地域) |
※建築基準法による確認 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・建築物の用途 ・建築物の高さ(10m) |
10 | 都市計画法 (区域区分・市街化調整区域) |
※許可制 ※罰則規定あり(懲役又は罰金) ※制限の内容 ・開発行為のための土地の区画形質の変更 |
11 | 首都圏近郊緑地保全法 (近郊緑地保全区域) |
※届出制 ※罰則規定あり(罰金) ※制限の内容 ・建築物その他の工作物の新築、改築又は増築 ・宅地の造成、土地の開墾、土石の採取、鉱物の掘採その他の土地の形質の変更 ・木竹の伐採 ・水面の埋立て又は干拓 等 |
12 | 逗子市まちづくり条例 | ※手続き条例における基準 ※制限の内容例(用途地域別に設定) ・建築物の高さの制限 ・階層制限 |
13 | 海岸法 (海岸保全区域) 公有水面埋立法 神奈川県土地利用調整条例 (公有水面) |
※許可制 ※罰則規定あり(懲役または罰金) ※制限の内容 ・海岸保全区域における土石の採取、土地の掘削・盛土・切土等 ・公有水面における埋立行為の制限(神奈川県土地利用調整条例審査指針) |